TalkChina講師の舒婷先生と、東京大学?楊凱栄先生との対談、「日本人への中国語教育」をまとめています。

NHKラジオ中国語講座応用編でおなじみの東京大学教授・楊凱栄先生と、TalkChinaの共同経営者で自らも講師として活躍している 舒婷先生とが、「日本人への中国語教育」について対談して頂きました。
楊凱栄先生は、中国語学、対照言語学(中国語と日本語)、主として中国語と日本語の文法構造に関する対照研究を行っており、東京大学で中国語教育の現場に立ちながら、NHKラジオ中国語講座(応用編)でも人気講師として活躍されています。また、TalkChinaの中国語初級、中級コースでは、楊凱栄先生著作の『身につく中国語』『実力のつく中国語』を採用させて頂いております。
一方の舒婷先生は、清華大学を卒業後、東京大学言語情報科学大学院修士にて言語学を専攻する傍ら、自らが主宰する全世界向け中国語オンライン教室「Special Chinese Online」を運営、その後「日本人向け中国語教育取得方法」を開発し、2010年Talk China を開校致しました。
本日は舒婷先生にとって、東京大学での恩師である楊凱栄先生と「日本人への中国語教育」と題して対談して頂き、中国語教育について最先端の研究と実際の教育現場での経験を通じた知見を伺えればと思います。
舒婷:楊先生は日本人向けの中国語教育現場でのご経験が非常に長いですが、中国語を勉強する日本人に共通する印象はありますか?
楊先生:はい、大学の教員として、またNHKラジオ講座など多くの中国語教育の現場経験からすると、日本人の多くが往々にして初級どまり、あるいは中級クラスまでで留まっているのが多いような気がします。
教え方や教材の問題など、様々な理由が考えられますが、まず1番最初に指摘したいのは、日本人は文法知識の習得には積極的ですが、会話実践(=Output)になると、あまり積極的ではないという点です。
英語学習でも同様な議論があると思いますが、日本人学習者はリーディングや文法知識を頭に詰め込み、筆記テストではいい成績を取りますが、その得た知識を会話実践で生かすのが必ずしも得意ではないようです。
語学本来の目的は、人とコミュニケーションすることであり、あくまで道具です。日本人が進んで外国人とのコミュニケーションを取るのに躊躇する背景には、「日本人が気を使い、遠慮してしまう」という文化的背景が潜んでいるとも考えられます。
舒婷:そうですね。外国語というのは、まるで未知の世界のようである一方、外国語でネイティブに自分の意思が通じたという喜びは非常に大きいものです。日本人中国語学習者はたくさんのOutputのチャンスをつくって、勇気を持って、間違いを恐れずどんどんしゃべれば上達がきっと早くなるのですね。
言語学研究者の見地から言えば、どういう心構えで語学を習得すればよいのでしょうか?
楊先生:よく、「子供は語学の天才」と言われます。赤ちゃんが言葉を覚えるときには、まずお父さん、お母さんから発せられる言葉を真似します。つまり、子供の語学習得は耳と口だけなのです。この時点では、全く文字は読めませんし、文法を理解してはいません。とにかく、真似をし続けること、「耳と口」から言葉を習得しています。
そもそも、言語の始まりは「文字」ではなく「音」なのです。この事実を深く受け止めなければなりません。特に、中国語の場合、日本人にとって「漢字」という馴染みやすい「文字」があるため、文字から理解していこうという意識が生じやすいようです。欧米人は、漢字に親しみがないぶん、中国語を音として捉える傾向があるのは、この漢字の存在にあるかもしれません。
子供が自転車に乗るときや、水泳するときに、本を読んで運動メカニズムを理解して実践するでしょうか?まずは、自転車に乗って転んで覚えていく、まずは水の中に顔をつけることからはじめるでしょう。語学も、自転車や水泳のようなひとつのスキル、ツールとして考えた場合、どんどん耳と口で言語を「音」として捉え、実践していくべきです。
楊先生:中国語では「発音」が出来ると中国語の半分以上をマスターしたとも言われます。これは大袈裟に聞こえるかもしれませんが、中国語の非常に重要な側面を捉えています。初期の段階で「発音」をおろそかにしてしまった学習者の上達がやはり遅いように思います。
逆に言えば、勇気を持って中国語の発音を口に出し続けた人、繰り返しネイティブの発音などを聞きながら真似をした人は上達しやすいです。細かい文法などは発音が固まってからでも遅くないでしょう。
楊先生:やはり、日本人向けに中国語教育を長年行っていると日本人特有の陥りやすいポイントがあるのに気づきますね。その辺は、日本人に対してマンツーマン教育をしている舒婷さんも、非常に詳しいと思いますが、よくあるケースは「b」と「p」の有気音と無気音の違い、「en」と「eng」の前鼻音と後鼻音の違いなどいろいろとあります。特に、前鼻音と後鼻音の違いについて上級レベルになってもまだはっきり区別できない人もたくさんいると思います。
こういった日本人特有の難しいポイントには、それなりの対処方が必要です。例えば、「有気音」と「無気音」の違いを知ってもらうために、紙を口の前において練習する方法などはよく知られています。
中国語教師がこういった日本人特有の陥りやすいポイントに習熟しているか否かは、効率的に語学を習得していくにあたって非常に重要です。先生のティーチングスキルや経験が大変重要になります。
楊先生:Nativeと会話実践をすることを中心とした、オンライン語学スクールが広がっていることは知っています。語学習得では、経済的な制限やエリア的な制限や時間的制限で、断念している人は多いと思います。インターネットはどこでもつながりますから地方などで近所に良質な中国語教室がない場合でも受講できる(エリア的な制限)、また多忙なビジネスマンが帰宅したあとでもPCさえあれば勉強できる(時間的制限)、等、様々なメリットがあると思います。
また、PCを使ったオンライン会話は遠慮しがちな日本人には合っているかもしれません。よく、中国語教室の現場では、人目を気にしてあまり会話を実践出来ない人も多いですが、自宅でPCの前であれば、結構思い切ってどんどんOutput(=実践)できるかもしれません。
いずれにせよ、Nativeとつながっているという臨場感や、会話が通じたときの喜びなどはオンライン教育でも十分に達成できると思います。
楊先生:これは舒婷さんもご存じのように、会話には手振り、身振りなどの「ノンバーバル・コミュニケーション」の要素がありますので、オンライン教育の場合その点が弱い分、逆に講師のティーチングスキルの質が問われると思います。
もちろん、教室での勉強とも異なるし、実際に人と会って会話するとも異なります。そこで、それに合った講師サイドのコミュニケーション・スキルが求められます。
楊先生:講師と生徒との関係については、大学教育のような1対多数の教室型授業と、マンツーマンレッスンとの違いは大きく異なってくると思います。マンツーマンレッスンの場合、特に講師の人間的な魅力が重要であると思います。「この人と話したい」と思わせる「何か」です。1人1人の得意・不得意などもありますが、それ以外にも性格や興味関心の違いなど、その生徒に合わせてレッスンを構成するティーチングスタイルをとらなければならないと思います。
楊先生:いつも強調しているのは、外国語を学ぶというのは知識というよりもコミュニケーションのスキルがより大事であるということ。本で覚えた単語と文型を実際の場面で使えないと意味がありません。単語や文法などの知識をひたすら教え込む本はたくさんあります。構文と会話はそれぞれのコミュニケーション機能を持っていて、どの場面でどの文型を使えばよいのか、といった場面付きの教科書と講師の教授がやはり重要ですね。
例えば、一つの文型を習うことによって、いろいろな場面に応用できます。単語を置き換えればそれぞれの場面に通じる場合があります。ですから、講師は生徒さんにこの文型を教える際にどのような場面で使えるかを提示し、そして適切な置き換え練習をさせるのが重要だと思います。適切な置き換えトレーニングの反復によって、生徒さんは自ら言葉を活用できるようになってくると思います。
楊先生:学生と違って、社会人は忙しいと思いますので、コマ切れの時間を使ってうまく学習環境を整えなければならないでしょう。
まず、マンツーマンレッスンの時間を効果的にするためには、多少の時間でも良いので、レッスン前の事前準備、「今日は何を話そうか」「何を質問しようか」というイメージを持ってレッスンに臨むことです。また、レッスンを録音してi-podなどで復習材料にし、繰り返しヒヤリングするのも効果的だと思います。
楊凱栄先生は、若い時に日本に留学され、長年日本の中国語研究・中国語教育の現場にいらっしゃった方で、語学についてもさることながら、日本人の特性や文化についても大変精通されています。
TalkChinaの中国語初級、中級コースでは、楊凱栄先生著作の『身につく中国語』『実力のつく中国語』を採用させて頂いており、舒婷先生の恩師ということもあり、TalkChinaのコース開発にあたってもいろいろと相談にのって頂いております、今後も先生の中国語教育についての知見をTalkChinaのコース開発のヒントとさせて頂ければと考えております。
楊 凱栄 / Yang Kairong 東京大学教授
専門分野 中国語学、対照言語学(中国語と日本語):主として中国語と日本語の文法構造に関する対照研究を行っている。